日本医療大学学園コラム|抱えない介護2

日本医療大学|アンデルセン便り

11月01日

抱えない介護2

 先週は動きのパターンを段階ごとに分解して理解することを説明しました。こうした理解は、高齢者ができないことだけではなく、できることを知ることにつながり、高齢者に自分の力を可能な限り使ってもらうことができます。高齢者が自分の力を維持するためには可能な限り力を使うことはとても大切なことです。引いては、職員にとって、できない部分への支援に集中でき、負担の軽減にもつながります。つまりこの理解はウィンウィンの関係につながるのです。
 とはいえ、職員は、多かれ少なかれ自分の身体を使って支援することになります。その際に重要なのは、「摩擦抵抗を減らす」ことです。そもそも、通常の動きでも、我々は自然のうちに、例えばベッドの上でも、身体を浮かすなどして摩抵抗を減らしながら移動しています。
 そこで、高齢者本人に身体を少し浮かしてもらったり、少しでも手や足で突っ張ってもらうなどしてもらえば、職員はより軽い負担で移乗支援を行うことができます。本人の力が十分でない場合は、本人とベッドの間にスライディングシートを挟むなどして、補助器具を使って摩擦抵抗を減らすことが大切です。それでも難しい場合は、天井リフトなどを使って持ち上げます。デンマークの高齢者施設では天井リフトが標準化されてきており、職員の負担軽減に大いに役立っています。
 ちなみに、ここで言っている「補助器具」とは、日本の「福祉用具」に相当します。しかし、「福祉用具」と違うのは、“補助”の対象に、本人だけではなく、職員もしっかり含まれているということです。デンマークのコミューン(市町村に相当)すべてに、それぞれの補助器具センターが存在し、器具を貸し出していますが、貸し出す対象は、本人だけではなく、施設もです。日本にも福祉用具関連の会社は多くありますが、あくまで介護保険対象の本人の用具が中心です。ここからでも、職員の労働環境を守ることも福祉の一部と考えるデンマークとそうではない日本との違いが浮き彫りになります。

天井リフト
可能な限り器具を使うことはとても大切
リハビリ

デンマークの高齢者は身体が大きく、抱えない介護は自然の理でもある

略歴
銭本 隆行 氏
学校法人日本医療大学特別講師、認知症研究所所員
1968年広島市生まれ、福岡市育ち。早稲田大学卒業後、時事通信社、産経新聞社に勤務の後、2006年にデンマークへ渡る。デンマークの国民高等学校「日欧文化交流学院」にて、福祉、教育、医療に関する研修を日本から受け入れてきた。2011年から2015年まで同校学院長を務め、現在は学校法人日本医療大学特別講師、同大学認知症研究所所員を務めている。

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